ブックタイトルクロスオーバー No.30

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概要

クロスオーバー No.30

Tohoku UniversityCROSS OVER No.30研究教育院生の研究内容紹介黒田健吾生命・環境領域博士研究教育院生3年農学研究科生物産業創成科学専攻「抗菌ペプチドによる大腸癌細胞の増殖抑制作用」無脊椎動物から脊椎動物に至る多くの動物において、微生物の侵入や感染に対して様々な自然免疫系が発達しています。その役割の一端を担っているのが抗菌ペプチドであり、近年では、抗菌活性以外にも、多様な機能を持つ機能性ペプチドとしての応用が注目されています。私たちの研究グループでは1981年以降、日本において死因のトップであり人々の健康を脅かす「がん」、特に罹患数も死亡数も増加傾向にある「大腸癌」に焦点を当て、動物およびヒト由来の抗菌ペプチドの大腸癌細胞に対する作用についての研究を行っています。ペプチドは様々なアミノ酸が繋がってできている化合物です。私たちヒトも抗菌ペプチドを複数持っており、その中でも37のアミノ酸から成るLL-37と呼ばれる抗菌ペプチドは、アミノ酸の配列からαヘリックスと呼ばれる螺旋状の構造を取り、両親媒性の性質を持つ事が知られています(図1)。私たちはLL-37や、アミノ酸の一部を改変したペプチドに大腸癌細胞の成長を抑制する効果がある事を突き止めました(図2)。この成長を抑制しているメカニズムは何なのか?細胞のミトコンドリアの脱分極やDNAの断片化が確認できた事から細胞死のメカニズムの1つであるアポトーシスが引き起こされた結果であることが分かりました(図3)。癌細胞は急速な増殖や転移のため、正常細胞とは異なる代謝を行う事が知られています。私たちはその「代謝」に注目し、メタボローム解析と呼ばれる方法を用いて、抗菌ペプチドで処理した前後で代謝物がどのように変化しているのかを明らかにしようと試みました。その結果、癌のエネルギー生産で重要な解糖系において律速段階が生じ、結果として「生体のエネルギー通貨」と呼ばれるATPが減少し、非常にストレスのかかった状態である事が分かりました(図4)。現在、癌治療の新たな戦略に繋がるデータを獲得するため、更に多くの観点から抗菌ペプチドの作用メカニズムについて研究を進めています。ReferencesKuroda K et al. Oncol Rep. 2012, 28(3): 829-34Kuroda K et al. Int J Oncol. 2015 Apr;46(4): 1516-26.Kuroda K et al. Front Oncol. 2015 Jun 30;5:144.図1. LL-37の構造(RCSB PDBより)図3.アポトーシスマーカーの検出図2.抗菌ペプチドによる大腸がん細胞の抑制効果図4.メタボローム解析遠藤基情報・システム領域博士研究教育院生3年工学研究科応用物理学専攻「磁気渦構造を用いた強磁性トンネル接合磁場センサの高感度化」スピンエレクトロニクス分野では、強磁性トンネル接合(MTJ)に関する研究が盛んに行われています。MTJとは強磁性体/絶縁体/強磁性体の3層構造のことをいい、2つの強磁性体の磁化の相対角度に依存して抵抗が変化するトンネル磁気抵抗(TMR)効果が表れます。MTJはメモリや磁場センサへ応用されています。特にセンサは情報化社会に欠かせないデバイスであり、例えば生体磁場の計測への応用を考えると高い感度が要求されます。現在ではMTJ磁場センサを用いて、心拍と同期した心磁場の波形を観測可能な感度が得られています。しかしながら、実用化に向けてはさらにセンサのS/N比を向上させることが大きな課題となっています。私の研究では、強磁性体をディスク状に加工することにより発現する磁気渦構造に着目しています。通常、強磁性ディスクの磁化を飽和させるのに必要な磁場の大きさは強磁性薄膜に比べて大きくなります。しかし、ディスクの一部分(部分系)に着目して磁化の空間平均をとると、ディスク全体と比べて飽和磁場が小さくなっているのがわかります。部分系の概念は統計力学や量子情報科学の分野で用います。前述の効果は着目する部分系とその他の部分系のエネルギーのやり取りによって生じます。これをMTJ磁場センサに用いることによりセンサ感度の向上が期待できます。これまでに、私はシミュレーションにより強磁性ディスクの磁気秩序と磁場による磁気配列の変化を調べてきました。結果として、磁気渦構造を仮定してディスク中央の円形の領域に着目した場合に、その飽和磁場は領域の直径に対するディスク直径の比に比例することがわかっています。非晶質の軟磁性材料を円形に加工した場合に、数十マイクロメートルの直径で磁気渦が観測されています。今後は、実際に磁気渦を応用したMTJ磁場センサを作製し、その特性の評価・構造の最適化を行っていきます。04