ブックタイトルクロスオーバーNo.29

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概要

クロスオーバーNo.29

学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所東北大学クロスオーバーNo.29大村周先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科化学専攻「強レーザー場中の電子ダイナミクスの解明に向けて」私は電子ダイナミクス、すなわち時間とともに電子がどのように運動するのか、ということに興味をもって、その理論研究を行っています。分子のクーロンポテンシャルに匹敵するほど強いレーザー場中に分子がさらされると、トンネルイオン化などの電子ダイナミクスが誘起されます。トンネルイオン化に引き続いて起こる高次高調波発生という現象を利用して、アト(10 -18)秒パルス生成や波動関数イメージングなどが可能になってきました。レーザーパルスによって高速で伝導性を変化させて、電流を制御する応用研究なども行われてきています。電子ダイナミクスは複雑な多体問題であり、今後の発展のためには、理論研究による詳細な機構解明が一つの課題となっています。電子ダイナミクスは時間依存Schrodinger方程式(TDSE)によって記述されますが、現在の計算資源で多電子系のTDSEを数値的に厳密に解くことはできません。そこで本研究では、多電子系のTDSEを、精度を保ちながら高効率に解くことができる多配置時間依存Hartree-Fock法の開発を行い、LiH分子やCO分子など従来と比べて多電子系の計算が可能になりました(図1)。この手法で得られる結果は高精度である一方で、単純な物理的描像が得づらいという問題があります。これを解決するために、私は全エネルギーを一電子の波動関数である分子軌道ごとに分解する解析法を提案し、各軌道のエネルギー変化が電子の動きと非常によく相関していることを見出しました。これは、多体効果を取り込みつつも一電子描像に基づいた解析ができることを意味しています。現在この解析法を拡張して、電子が感じる局所的な有効ポテンシャルの計算を行っています。これにより、電子にどの位置でどのような力が働くかを視覚的に理解できるようになると期待されます。今後は、新規光源として実用化され始めたX線自由電子レーザーを仮定したシミュレーションや電子ダイナミクスに伴う化学反応の解析などへも研究を展開していきたいと考えています。図1 LiH分子のシミュレーション結果。分子軌道はレーザーパルスの力に従って揺さぶられ、空間的に広がっていく。張超亮デバイス・テクノロジー領域博士研究教育院生3年工学研究科電子工学専攻「磁気トンネル接合を用いた三端子素子に関する研究」情報社会の進展に伴い、パソコンや携帯電話などの電子機器は我々の日常生活において不可欠な存在となっています。それらに用いられているランダムアクセスメモリ(RAM)は情報を電気的に保持していますが、近年構成素子の微細化が進むにつれてリーク電流の増大による待機時消費電力の増大が深刻な問題となっています。このような中、磁石の極性で情報を不揮発に記憶する磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)が、こうした消費電力の問題を解決する手段として注目されており、盛んに研究されています。MRAMの記憶素子となるスピントロニクス素子にはいくつかの種類がありますが、最近図1のようなPt、Ta、W、Cu:Irなどの重金属からなるチャネル上に磁気トンネル接合(MTJ)を形成した三端子素子が提案されており、低消費電力での高速動作が期待されています。MTJは薄い絶縁体からなる障壁層を二つの強磁性層(記録層と参照層)で挟んだ積層構造で構成され、デジタル2値情報の「1」と「0」が記録層中の磁化方向として記録されます。情報を書き込む際には、重金属チャネルに印加した面内電流によって、MTJの記録層中の磁化にスピン軌道トルク(SOT)が作用し、磁化方向を反転させます。このような素子は三端子SOT-MTJ素子と呼ばれています。現在私は、高性能な三端子SOT-MTJ素子の開発を目標として、以下の4項目の研究を進めています。a)SOT誘起磁化反転の動作原理の解明b)直径100 nm以下のMTJを有する三端子SOT-MTJ素子のナノ秒高速評価c)SOT-MTJ素子の性能を向上するための材料、素子構造開発d)SOTを利用する新たな磁化スイッチング機構を持つ三端子素子の実証本研究によって、SOT磁化反転、及びより一般的な磁化反転、スピン・軌道相互作が介在する磁気輸送現象などに関する物理的な理解が深まることが期待されます。また高速動作が可能な低消費電力不揮発メモリ素子の実現に向けた指針も得ることができ、産業界へも高いインパクトを与えられるものと考えています。図1:三端子SOT-MTJ素子05