ブックタイトルクロスオーバーNo.29

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概要

クロスオーバーNo.29

Tohoku UniversityCROSS OVER No.29須田亜弥子生命・環境領域博士研究教育院生3年生命科学研究科生態システム生命科学専攻「進化的応答を組み込んだ魚類の将来分布予測モデルの構築」私の研究では、今後の急速な環境変化、特に温暖化に対して海洋生物がどのような応答を示すのかを予測するモデルの構築を目指しています。近年、地球温暖化などの環境の変化が原因によって海洋生物の生息域のシフトや回遊パターンの変化が生じている中、水産資源対象種においても水温上昇による漁獲量の増減や漁場の変化が生じています。今後も温暖化はさらに加速すると予測されているため、生物多様性の維持や安定した資源利用を目指すには、生物の環境に対する応答を正確に予測するモデルが必要です。これまでの将来分布予測は生物の時間的・空間的変化を考慮しないモデルが多く、今後の環境変化に対し、生物がどう変化しうるのか(進化的応答)は考慮されていなかったことや、広範囲に生息・移動が可能な海水魚類の場合、自ら好む環境に移動することで環境変化ストレスから回避できるため、特定の生息環境に対する適応は滅多に生じないと考えられていました。しかし、近年のゲノム科学的アプローチなどから、これらの海水魚においても環境変化に対し迅速な適応を示していることが明らかにされつつあります。私の研究対象としているマダラは北太平洋沿岸に広く生息する冷水性の底生魚であり、日本近海が分布の南限になります。日本近海は暖流と寒流の行き交う多様な環境が存在するため、環境に対する適応的な応答を評価するためにもこの海域のマダラは適した種と言えます。マダラは日本近海では北部と南部で遺伝的に集団の分化が生じていることがこれまでに明らかになっており、おそらく海流の影響による海水温の違いによる適応的な分化が生じているのではないかと考えています。また、ゲノムワイドな遺伝子マーカーを扱った解析からも環境適応に関連する遺伝子を推定することができました。これらの環境に応答している遺伝子マーカーの情報を既存の分布予測モデルに組み込むことで、マダラの個体群が海水温の変化にどのような適応的な反応を示し、個体数を変化させるのかを予測することができると期待されます。海法悠生命・環境領域博士研究教育院生3年医学系研究科医科学専攻「地域在住高齢者における、痛みと要介護発生リスクの関連」高齢化著しい我が国を含む諸先進国において、“痛み”がいま注目されています。近年、痛みに苦しみながら生活することで、個人の“生活の質”や“健康感”が低下することや、さらには“日常生活能力”にまで影響が及ぶことがわかってきました。すなわち痛みによって生活機能が低下し“要介護状態”となることが示唆されています。要介護は、個人の自立した生活を妨げるばかりか、高齢者の致死率にも影響を及ぼすことがわかっています。現在、痛みが要介護リスクを上げると報告しているのは、ほとんどが国外の横断的研究です。しかし、関連の因果関係(痛みが原因で要介護が増える)を証明するためには、縦断的研究を行う必要があります。痛みと要介護の関連をみた縦断的研究は国外でもほとんど行われておらず、結果も一致していません。また私の知る限り日本ではまだ行われていません。本研究は、わが国で初めて、痛みと要介護の関連を縦断的に検証するものです。私は、痛みが高齢者の要介護発生を早めるメカニズムとして、生活不活発を経由する図のような経路を想定しています(図)。本研究の目的は、地域在住高齢者を対象とした大規模コホート研究のデータを使用し、痛みを抱えて生活する高齢者は、痛みのない高齢者と比較して、要介護発生がどの程度起こりやすいのかを明らかにすること。またそのメカニズムについて考察することです。生存時間解析という手法を用いています。高齢化に伴い、介護保険制度における要介護者数は増加の一途をたどっています。また同時に、痛み(特に関節の痛み)に苦しむ人々は今後も増え続けると予想されます。痛みと要介護の関連を明らかにする本研究は、持続可能な社会保障制度にも資するという視点で、社会的にも重要な意義を持ちます。私は麻酔科医として、本研究を足掛かりに、高齢者が痛みに苦しむことなく健やかな自立した生活を送ることができる未来を目指します。04