ブックタイトルクロスオーバーNo.29

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概要

クロスオーバーNo.29

学際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所東北大学クロスオーバーNo.29研究教育院生の研究紹介小川由希子物質材料・エネルギー領域博士研究教育院生3年工学研究科知能デバイス材料学専攻「相変態を利用した高機能性Mg合金の開発」Mgは軽量であり、比強度が高いという利点から次世代構造材料として長年注目を集めてきました。近年では、長周期積層(LPSO)構造と呼ばれる特異な原子配列相を持つ高強度Mg合金が開発され1)、自動車産業等での実用化の期待がさらに高まっています。しかしながら、室温における加工性に乏しく、幅広い分野での実用化には未だ至っていません。この加工性に乏しいという欠点はMgの六方最密充填(hcp)構造に起因しています。hcp構造は異方性が高い結晶構造であるため、すべり変形による等方的な変形が難しく、変形異方性を緩和するために変形双晶が形成されます。一方、この双晶の二次化によって形成される二重双晶においては局所的な大変形が起こり、結果的に早期破壊を招きます2)。このように、すべり変形による等方変形が難しいhcp構造のままでは高強度かつ高延性化には限界があると考えています。そこで、私は、体心立方(bcc)構造を利用した新規Mg合金の開発に取り組んでいます。bcc構造は等方的なすべり変形が可能であり、bcc構造の導入により加工性の向上が見込めます。二元系Mg合金においてbcc相を有するのはMg-LiとMg-Sc合金の二つのみですが、中でもMg-Sc合金は、hcp+bcc二相域が組成に大きく依存するため3)、多彩な組織制御によって幅広く利用されているTi合金同様、組織制御によるMg合金の高機能化の可能性を秘めています。実際に、これまでの研究において、bcc単相やhcp+bcc二相組織を有するMg-Sc合金は最大引張強度300 MPa、延性204-7)~40%と強度・延性ともに高い値を示し、他のMg合金と比較しても強度と延性のバランスに優れた機械特性を有することが分かってきています(図1?内緑点)。更に、低温での時効処理によりbcc相内に微細なhcp相を析出させることで(図1?)、近年高強度Mg合金として注目されているLPSO型Mg合金に匹敵する強度が得られています(図1?内青点)。今後は、より詳細な組織制御によりTi合金のような高機能を持つMg合金の開発を目指します。1)M. Matsuda et al.: Mater. Sci. Eng. A 393, 269(2005),2)D. Ando et al.: Acta Mater. 58, 4316(2010)3)B.J. Beaudry et al.: J. Less Common Metals 18, 305(1969),4)C. Xu et al., J. Alloys Compd., 524(2012)465)J. Zhang et al., J. Alloys Compd., 509(2011)7717,6)H. Dong et al., J. Alloys Compd., 506(2010)4687)J.-M. Song et al., Metall. Mat. Trans. A, 40A(2009)1026図1? Mg合金の引張特性、?時効処理後の組織神林寿幸人間・社会領域博士研究教育院生3年教育学研究科総合教育科学専攻「労働時間調査データを用いた教員の業務負担増大のメカニズムの解明」ニュース等でも取り上げられるように、日本の教員は忙しいと言われますが、教育学の通説では、教育行政機関からの調査への回答や保護者からの苦情対応といった、教員の本来的な業務とはいえない業務による負担が増大しているとされてきました。現在の教育政策も、教員が本来的な業務である授業や生徒指導等の教育活動に専念できるような体制づくりを志向しています。しかし以上の通説は、十分な実証に基づいたものとはいえません。そこで私は実証に基づいた研究を志向し、労働時間調査データの多変量解析から、実際に日本の教員にとって負担が大きい業務は何かについて探究し、これまで次の3つのことを明らかにしてきました。第1に過去の労働時間調査を比較すると、近年のほうが、生徒指導等の授業外の教育活動に費やす時間が長くなっている。第2に、相対的に生徒指導に費やす時間の長い教員の主観的な業務負担(業務負担感)が強い。第3に海外の教員では、生徒指導に費やす時間が長い教員は業務満足度が高いが、日本では逆に生徒指導に費やす時間が長い教員ほど、業務満足度が低い。そして、これらの知見を踏まえて、子どもの貧困や発達課題の多様化が進む中で、教員の本来的な業務である生徒指導や学習指導が、現在の日本の教員にとって負担が大きくなっているという、通説とは異なる見解を示してきました。しばしば「一億教育評論家」という言葉を目にします。誰もが学校教育を経験するため、実証ではなく主観に基づいた議論・考察が、教育学でも多いように思います。私の研究関心である教員の業務負担に関する議論もその一つといえるでしょう。最近では教育学にも、隣接領域の分析枠組み・手法を採り入れ、実証研究を志向する動きもありますが、科学としての教育学は、依然として発展途上です。これからも他領域との積極的な対話を行い、教育学の通説の再検証にチャレンジしていきたいと思います。03