ブックタイトルクロスオーバーNo.28

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概要

クロスオーバーNo.28

03国際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.28近年の地球温暖化等の問題が深刻化する中、利用の段階で水しか排出しない水素エネルギーは低炭素な次世代エネルギーとして注目されています。特に、固体高分子形燃料電池(PEFC)は燃料電池自動車や燃料電池バスなどに利用され、災害時の非常用電源としての役割も担っており、今後のさらなる普及が期待されています。PEFC では、高分子電解質膜内を適度な湿潤状態に保つことでイオン伝導性が発現し、プロトン(H+) がアノード側からカソード側へ移動します。これにより水素+酸素→水という化学反応が起こり、電力を取り出すことができます。すなわち、高分子電解質膜内のプロトン輸送がPEFCの発電効率を支配しており、プロトン輸送の高効率化がPEFC の本格的な普及に向けて非常に重要となります。高分子電解質膜内部では、電解質膜の親水基によって不均一に形成されたナノスケールの水クラスター内をプロトンが移動します。したがって、プロトン輸送はナノスケールの水クラスター構造に大きく起因するため、実験や従来型のマクロシミュレーション手法では輸送特性を把握することが困難です。そこで私の研究では、この高分子電解質膜内におけるナノスケールのプロトン輸送特性を原子・分子の挙動に着目したスーパーコンピュータによる数値解析(分子動力学法)により解析を行っています。これにより、従来の連続体理論を用いた解析では不可能であったナノ・メゾスケール構造内における輸送量を定量的に把握し、物質輸送特性を解明することが可能となります。本研究により、高分子電解質内のプロトン輸送メカニズムが解明されれば、高機能の輸送特性を有する高分子電解質膜の理論的設計が可能となるため、産学両面へのインパクトは非常に大きいと考えています。さらに、数値予測の精度が向上すれば、マルチスケール解析に基づく数値シミュレーションによる性能予測も可能となり、電解質膜設計の幅や精度が飛躍的に向上することが期待できます。「高分子電解質膜ナノスケール構造内におけるプロトン輸送メカニズムの分子論的解析」馬渕 拓哉物質材料・エネルギー博士研究教育院生3年工学研究科ナノメカニクス専攻癌細胞を囲む周辺の微小環境は、腫瘍の形成や癌細胞の浸潤を助ける重要な役割を担っていることが明らかとされています。(図1)特に乳房組織全体の構成に不可欠な役割を担っている脂肪細胞は、乳癌組織の微小環境において癌細胞と相互作用することが報告されていますが、その詳しい作用機序は明らかとされていません。そこで本研究では、乳癌微小環境における間質脂肪細胞の役割と癌細胞に与える影響について明らかにするために、ヒト乳癌組織を用いた病理学的解析や、乳癌培養細胞株と初代ヒト脂肪細胞、及びマウス脂肪細胞株を用いた培養実験による検討を行いました。まず始めに、癌組織中における脂肪細胞の脂肪滴が減少する傾向が認められたことや、脂肪マーカーの減少に伴い、サイトカインの発現上昇を認めたことから、本研究の実験系において正常脂肪細胞が癌関連脂肪細胞(CAA)へと性質変化したことを確認致しました。次にCAA が癌細胞へどのような影響を与えるのかを調べるため、脂肪細胞由来因子の添加や脂肪細胞との共培養により、乳癌細胞の増殖能、遊走能、及び浸潤能が有意に上昇することを確認しました。(図2)更に、共培養を行った乳癌細胞の遺伝子発現の網羅的解析を行ったところ、カルシウム結合タンパクであるS100A7、及びアディポサイトカインとしても着目されているLipocalin-2 (LCN2) が過剰発現していることを認めました。いずれもタンパク発現がヒト乳癌組織において悪性度を示すマーカーと有意に相関しており、それぞれノックダウンすることにより脂肪細胞由来液性因子によって誘導された乳癌細胞の増殖、遊走、及び浸潤能を有意に抑制することから、脂肪細胞との相互作用による癌細胞の悪性化に重要な役割を担っていることが考えられます。また、これらのタンパクは細胞外へ分泌されるため、更に詳細な機能解析を行うことで、将来的に乳癌細胞の浸潤リスクなどを示すバイオマーカーに成り得ることが期待されます。「乳癌における脂肪組織浸潤メカニズムの解明」櫻井美奈子生命・環境領域博士研究教育院生3年医学系研究科 医科学専攻