ブックタイトルクロスオーバーNo.28

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概要

クロスオーバーNo.28

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.2802生まれつきに心血管構造に異常を抱える先天性心疾患においては、病態や解剖が複雑多様であり、患児の成長を考慮しながら治療のタイミングを逸さないように戦略を立てることが重要です。なかでも右心室から肺への血流路の逆流防止弁(肺動脈弁)が狭窄あるいは閉鎖している症例は多く、血流減少による肺の低形成や右室負荷による心不全をきたすため、肺動脈における血流連続性の確保(右室流出路再建)が必要となります。近年、右室流出路再建用のハンドメイド高分子(ePTFE)製3 弁付導管が開発され、臨床でも良好な成績を上げています。この弁付導管には、生体肺動脈基部にあるバルサルバ洞を模したbulging sinus(膨らみ構造)をもたせており、バルサルバ洞のもつ弁葉周辺渦流形成による弁挙動促進効果を目的としていますが、bulging sinus や弁葉の具体的設計形状と性能との関係は明らかになっていません。そこでわれわれは、弁形状最適化のため医工融合の包括的な非臨床評価を行っています。ePTFE 製弁の設計形状の効果検証のため、流体管路からなる血液循環シミュレータを構築し、小児右心循環の条件下で弁前後圧力および流量計測を行い、設計形状の差異が循環動態へ及ぼす影響を定量的に取得しました。これまでにbulging sinusの存在によって弁の良好な可動性が得られることが明らかになっています。模擬循環によって得られる血行力学性能評価と、数値解析をはじめとした可視化技術の応用から、ePTFE 弁内部で起こる現象と弁設計形状との関連を明らかにし、形状改良に有効なパラメータを決定していきます。しかしながら、生体循環系では、静脈や右心から左心の動脈系への血液流れが相互に影響し合うため、単純な流体管路系のみで容量や流量変化に対する応答を厳密に再現することはできません。よって、右心・左心系の相互作用による弁機能への影響を検討し、生体内での安全性・有効性・信頼性を評価するため健常山羊での動物実験もあわせて行い、臨床現場での先天性心疾患外科治療への貢献をめざします。クラスターは2個から数千個程度の分子が分子間相互作用により結合した集合体のことを指し、その構成分子数を変化させることにより、分子集合体の構造や分子間の相互作用の詳細な性質を段階的に調べることが可能となります。これまでに我々を取り巻く物質の性質や化学現象を微視的なレベルで解明するため、分子クラスターを対象とした研究が数多くなされ、大気や星間物質から生体中のDNA やタンパク質に至る様々な物質において新たな知見が得られています。そしてこれらの研究の中で、とりわけ重要な役割を果たしているのが水素結合です。水素結合は水素を介在する分子間相互作用の一形態であり、化学の広い分野、特に水に関わる化学や生化学などにおいて極めて重要な役割を担っています。例えば、水溶液における溶質溶媒間の相互作用(水和)、生体を構成するタンパク質の高次構造やその様々な機能の発現、プロトン移動やプロトンポンプ、そして神経伝達物質とその受容体との結合などにおいて重要な鍵となっています。そこで私はこれらに関する新たな知見を得るため、トリメチルアミン( TMA) という分子を含む様々なプロトン付加2成分クラスターを対象としてレーザー赤外分光研究を行いました。その結果、強い双極子モーメントを作り出す水和構造の観測(図1)や特異に安定な溶媒和構造の解明とその解離過程の観測(図2)を行いました。またこれらのクラスターをモデルとして神経伝達物質であるアセチルコリンの分子認識機構に関する新たな知見を得ることができました(図3)。さらに化学や生化学における最も基本的かつ重要な素過程であるプロトン移動に関しても、モデルクラスターからプロトン運動の多次元性などを解明しました(図4)。現在はこれらの知識を活かして、水和電子の構造を解明するために水クラスターアニオンの赤外分光研究に取り組んでいます。「医工学アプローチによる小児用肺動脈代用弁設計戦略の確立」「プロトン付加2成分クラスターに対する赤外分光研究」坪子 侑佑生命・環境領域博士研究教育院生3年医工学研究科 医工学専攻宍戸龍之介先端基礎科学領域博士研究教育院生3年理学研究科 化学専攻研究教育院生の研究紹介図  各種評価技術の統合による小児右心循環に適応する新しい肺動脈代用弁開発★坪子さんの研究は第53回日本人工臓器学会大会で萌芽研究ポスター発表優秀賞を受賞しました