ブックタイトルクロスオーバー No.27

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概要

クロスオーバー No.27

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.2704生体内での免疫恒常性は、適切な免疫細胞数の供給・存在によって保たれており、免疫細胞分化制御の機構の解明は、自己免疫疾患やアレルギー疾患の発症の理解に繋がる可能性があります。免疫細胞の分化は、多能性を有する造血幹細胞から始まり、数段階の前駆細胞を経て徐々に分化の能力が狭まり、最終的に一つの細胞系列に運命決定します。私は、抗体を産生するB 細胞に発現する遺伝子転写抑制因子のBach2 が、より広汎に発現するBach1 とお互いに機能を代償する形でリンパ球系共通前駆細胞において単球や顆粒球で発現が高い骨髄球系(自然免疫系)遺伝子の発現を抑え、これによりB 細胞(獲得免疫系)分化を促進することを示しました(Itoh?Nakadai A et al . NatImmunol 2014)。Bach2 遺伝子の多型はクローン病や1型糖尿病などの自己免疫疾患との関連が指摘されており、Bach2 による免疫細胞の数の調節の異常がこのような疾患の発症に関わっている可能性があります。前述の研究は、主に博士課程で行ったものです。私は、大学卒業後研究技術員として日本医科大学で働いていましたが、その時の仕事の中で、アレルギーや自己免疫疾患に興味を持ち、大学院進学を決意しました。まず免疫細胞発生の機序を知りたいと、修士課程では発生生物学分野の伊藤恒敏先生のもとで研究をスタートしました。伊藤先生は、免疫の司令塔であるT 細胞の分化・成熟を専門とされており、百科事典のように豊富な知識を持った大変情熱的な先生でした。一方で、当時、地域医療の寄附講座を主催していたこともあって多忙であったため、研究の進行に関してはかなり自由な研究室でした。修士の授業を受けていて、数人の先生がDNA 修復の研究をやっていることを知り、自分の研究結果を見てもらい、コメントを頂いたりして研究を進めていました。どの先生も一修士学生の私に丁寧にアドバイスをくれたのが印象的でした。この時初めて、自分で研究を推進する楽しさを知りました。国際高等教育院の修士研究教育院生の存在は、新入生説明会のときに知り、非常にハードルが高いと説明されました。初めは、博士課程進学は考えていなかったのですが、これに合格したら、博士課程に進学しようと応募することにしました。選考の際に評価される教科では、授業中積極的に質問したりして(そこだけというわけではないですが)、成績はよかったのですが、研究の方は、自分の興味の赴くまま推進していたこともあり、ユニークではあったかもしれませんが、学術的に評価してもらえる自信がありませんでした。そのため、選抜されたときは、自分の研究の進め方はそんなに的外れではないと認められた気がして、本当に嬉しかったのを覚えています。さて、博士課程に進む自信と覚悟が出来たのですが、このまま研究を進めていても、自立した研究者になれないであろうということは修士の二年間で痛感していました。目の前の実験を一歩ずつ進める事は出来るのですが、研究全体を見渡してまとめることが出来ず、その方法も分かりませんでした。さらに、イメージングの実験しか行っていなかったのも研究者として致命的に思われました。そこで、分子生物学の知識や手法を学びたいと思い、博士課程では生物化学分野の五十嵐和彦先生の元で研究を行うこととしました。五十嵐先生は、大変に教育熱心な方でした。五十嵐研では、週に一回研究のPR があり、その時に研究室全員の研究内容を知る事が出来ます。それぞれが独自のテーマを持って様々な分野の研究を行っているため、PRは自分の研究範囲の枠を広げる重要な時間でした。また、互いの研究を理解しているお陰で、PR の後はラボのメンバーと気のすむまで討論することも出来ました。自分が発表するときには、今日の発表の何が新しいのか、(ネガティブデータにしても、この条件ではネガティブだという事が新しく分かったことになります。)はっきりさせるように指導を受けました。また、実験は限りなく思いつくが、ゴールに最短で近づける方法を選ぶことを意識づけられました。それは、常に今の研究をどうまとめるのかを意識する事と同義だと思いました。五十嵐研で、今後研究生活を続けていく上での土台を作ることが出来たと思います。現在も自立した研究者を目指して発展途上ではありますが、博士課程に進んでからいままで、充実した楽しい毎日であったいう思いです。あの時、自信を与えて下さった国際高等研究教育院と、これまでご指導、アドバイス頂いた諸先生方に心から感謝申し上げたいと思います。研究教育院出身者の活躍「最大の支援は自信をもらったこと」伊藤 亜里東北大学 加齢医学研究所 助教平成19年度 修士研究教育院生平成21年度~平成24年度 博士研究教育院生