ブックタイトルクロスオーバー No.27

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概要

クロスオーバー No.27

03国際高等研究教育院/学際科学フロンティア研究所 東北大学クロスオーバー No.27近年、光子や電子といったミクロな粒子である量子の性質を本質的に用いて、情報処理を行う量子情報処理技術が盛んに研究されています。その代表的な応用例である量子暗号通信は、量子の性質を用いて物理的に絶対安全な暗号通信を実現するものです。その実現には、常に光子1 個を放出する単一光子源の開発が必要です。私は、ダイヤモンド中の不純物欠陥である窒素- 空孔中心(NV 中心)を用いた単一光子源の開発を行っています。既存の通信で使われるレーザー光等の光は、いくら出力を微弱にしても純粋な単一光子の状態を得ることができません。しかし、電子のようなフェルミ粒子系を介することで、単一光子状態を生成することが可能となります。本研究では、単一のNV 中心に局在した電子をレーザー光で励起し、その電子が発光緩和する際に放出される光子が1 つだけであることから、これを単一光子源として用いています。これまでの研究では、共焦点顕微鏡を自作で構築し、図?に示すような顕微鏡像によって、ダイヤモンド中の単一のNV 中心が発する光を探索し、その強度相関関数g?(2光子を検出する確率を、その時間差τの関数として表したもの。単一光子状態であればτ=0のときg? =0となる)を測定することで、NV 中心からの発光が単一光子であることを実証しました(図?)。現在は、励起光とNV 中心からの発光の偏光相関測定を行い、NV 中心の単一光子源としての偏光特性を解明するとともに、単一光子を用いた量子論の基礎原理の検証実験にも取り組んでいます。量子力学では、重ね合せ状態や波と粒子の二重性、非実在性や波束の収縮など、私たちの日常的感覚では受け入れ難い不可解な性質が数多く存在します。本研究で用いるような単一光子状態は、このような量子論の基礎原理を検証するのに大変適していることから、私は、単一光子を用いることで量子力学の不可解な性質の根源を解明する研究を目指したいと考えています。素粒子物理学には「標準模型」と呼ばれる実験的に非常に成功している模型があります。しかしこの模型には理論的に不十分な点が多くあり、また実験のすべてを説明することができていないということから、現在、標準模型を改良した「標準模型を越える物理(Beyond theStandard Model : BSM)」の探求が理論・実験の両方から精力的におこなわれています。私は荷電レプトンフレーバーという視点で素粒子物理学の理論研究をおこなっています。BSM 探索の実験手法には直接的なものと間接的なものがあり、それぞれ「エネルギーフロンティア実験」「フレーバー物理」と呼ばれています。一般にBSM を考える場合には標準模型には無い「新粒子」が模型の中に現れますが、この新粒子を発見することがBSM 探索の上で非常に重要なことになります。この新粒子を、エネルギーをつぎ込んで直接作り出してやろうというのが前者のエネルギーフロンティア実験であり、量子力学的な効果によって間接的に新粒子が関わる現象を見てやろうというのが後者のフレーバー物理になります。フレーバー物理の利点は、新粒子が非常に重い場合にもその効果を見ることができるというところにあります。新粒子が重い場合、それを実験で直接検出することはエルギー的に非常に難しいのですが、フレーバー物理では真空からエネルギーを借りてつくりだした仮想的な新粒子の効果を見ているため、もし新粒子由来の現象を発見することができれば、それは間接的に新粒子を発見したことになります。そうした利点があるため、フレーバー物理はBSM 探索の上で非常に重要なものとなっています。私はBSM として特に「超対称性(Supersymmetry)」を含む模型に関して、荷電レプトンフレーバーの稀崩壊現象や異常磁気能率、電気双極子能率などの理論計算をおこなうことよって、模型ごとの好まれるパラメータ領域の違いを調べたり、模型に制限を与える研究を行っています。また標準模型の中でまだ不明な点が多くあるニュートリノについても、その性質や質量生成機構をBSM と結びつけながら上記の物理量の計算を行っています。「ダイヤモンド中のNV 中心を用いた単一光子源の開発」「荷電レプトンフレーバーで探る標準模型を超える物理」阿部 尚文情報・システム領域博士研究教育院生3年工学研究科 電子工学専攻中村 佳祐先端基礎科学博士研究教育院生3年理学研究科 物理学専攻図?ダイヤモンドの共焦点顕微鏡像。緑や赤の輝点が各々単一NV中心からの発光を表す。?単一NV中心からの発光の強度相関関数g?。時間差t=0のときg?がほぼ0となることから、この発光が単一光子状態にあることを示している。