ブックタイトルクロスオーバー No.27

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概要

クロスオーバー No.27

Tohoku Un i v e r s i t yCROSS OVER No.2702私たちの体の中に存在するタンパク質である“酵素”を使用した発電システム『バイオ電池』の開発を行っております。酵素は体の中で、エネルギーを造るための化学反応の触媒として機能しています。この触媒機能は、従来の電池に使用されていた金属触媒と同じであるため、酵素を電池の電極表面に固定することで、酵素の触媒機能により発電することが可能となります。金属触媒を酵素触媒に置き換えることによって、従来の電池とは違う特徴を発電システムに付加することが出来ます。例えば、触媒に酵素を用いることで、電池全体を人体に安全な有機材料のみで作製することが出来ます。さらにその発電に必要な燃料に、体内に存在する糖分やアルコールを使用出来ます。材料及び燃料のすべてが無害であるため、極めて安全な発電デバイスとして機能させることが出来ます。私は現在、このバイオ電池の安全性を活かした応用研究に取り組んでおり、皮膚に貼り付けても害のないパッチ型バイオ電池の構築をメインのテーマとして研究を行っています。一方で、私たちの柔軟な皮膚に貼り付けるためには、従来の電池に使用されていた硬い材料ではなく、柔らかい材料でバイオ電池を構築する必要があります。そこで私は、繊維で織られた柔らかい“生地”を電極に使用し酵素を固定することで、柔軟でさらに伸縮性を持ち合わせたシート型のバイオ電池を開発いたしました。この電池は、体表面で最も大きく伸縮する関節の伸びに追従でき、さらに曲げやねじりといった、さまざまな機械的な変形にも対応することが出来ます。この結果は、体表面のどこでも使用出来るバイオ電池として、学術雑誌に報告させていただきました。現在では、この柔らかいバイオ電池を用いた、貼付型の体調センシングデバイスや投薬、治療デバイスの開発に取り組んでいます。この安全なバイオ電池が、人々の生活の助けになることを目標に、日々研究に取り組んでいます。生体を構成するあらゆる細胞は、重力、血流、骨格や筋肉の動きをはじめとする様々な力刺激を受けています。これらの「力(ちから)」は、生体の形成や維持に欠かせないものであり、近年ますます注目されています。しかしながら、細胞がいかにして力を感知し応答するのか、その詳細なシグナル伝達メカニズムには未だ不明な点が多く、私はその解明を目指し研究に取り組んでいます。力刺激による細胞の応答では、血管内皮細胞の例が良く知られています。血管内皮細胞は血管内壁を一層のシート状に覆う細胞であり、血流によるずり応力や血管の伸縮による繰返し伸展に常に曝されています。血管内皮細胞はこれらの力刺激に応答して、血流の流れと平行に、かつ伸展方向には垂直に、細胞の長軸を揃えて配向する性質があります(図A)。このような細胞の形態変化には、細胞内の動的な繊維であるアクチン骨格の再構築が不可欠です。この制御で鍵となる働きをするのがRhoファミリーと呼ばれる一群のタンパク質で、Rho ファミリー活性化因子(Rho-GEF)によって活性が制御されます。私の所属する研究室では、血管内皮細胞の繰返し伸展に対する応答に関わるRho-GEF を網羅的に探索し、複数のRho-GEF の同定に成功しましたが、私はその中でSolo というRho-GEF に着目しました(図B)。生化学的な解析や蛍光タンパク質を用いたイメージング系と、工学技術を用いた細胞への力負荷実験系を組み合わせることによって、細胞に入力される力の感知や応答にSolo が必要であることを明らかにしました。今後は、より高次の細胞集団や組織に対する力の役割を理解するため、さらに研究を発展させたいと考えています。本研究の推進にあたり、工学など他分野の先生方から多くのご助言を頂き、「力」という目に見えないシグナルの解明に挑むことができました。博士研究教育院生として在籍できたことに感謝いたします。「酵素を用いた発電システムの開発と皮膚パッチへの応用」「細胞が力を感じ応答するメカニズムの解明」小川 雄大物質材料・エネルギー領域博士研究教育院生3年工学研究科バイオロボティクス専攻藤原佐知子生命・環境領域博士研究教育院生3年生命科学研究科分子生命科学専攻研究教育院生の研究紹介A.血管内皮細胞は力刺激で整列する。B. 繰返し伸展刺激後の細胞のアクチン繊維染色画像。Soloは血管内皮細胞の繰返し伸展刺激による配向に必要なタンパク質である。